レコーディング
友達(まったく音楽関係ではない女の子)が歌録りをするので、一緒に来てくれと言われ付き合うことになった。連れられて着いたスタジオはレコーディングスタジオというよりはラジオ局のスタジオのようで、灰色の事務机が4つ田の字に並んでいて天井からマイクがぶら下がっていた。
左の机に彼女が着席し、請われるままにその隣に着席して彼女の歌録りに立ち会う。向かいの机には(恐らく)エンジニアさんたちが、少し離れた所にある会議卓のような長卓には(恐らく)バックトラックを録ったプレイヤーの方々が笑顔で座ってた。
彼女が歌い出した。私は自然と泣いていた。レコーディング中なので音は立てられない、なので泣くのを我慢しようと試みたけどまったく止まらない。何曲目かでもう我慢できなくなって、必死で声を押し殺して机に突っ伏して号泣していた。外へ出たほうが良いとも思ったんだけど、音を立てずに席を立ち、音を立てずにドアを開け閉めするのは無理なので諦めた。椅子は古いグレーの事務椅子でキィキィ鳴るし、ドアは古く大きく重く、やっぱりギィギィ鳴るから。
彼女が歌っている間、次の曲で後から被せる予定のパーカッション演奏者が、田の字の机と長卓の間にセッティングをし始めた。(それも変な話なんだけどね…これが不思議なことに、これっぽっちも音も立てずにセッティングを行なっていた。プロの人ってすげぇな…と、そんなはずないところで感心していた。)
曲が替わっても私の涙は一向に止まらない。ふと気付くと、友達はレコーディングを続けながらも私の手を取り、長卓に居たプレイヤーたちは私の後ろに立ち、相変わらずニコニコしている。
向こうから、パーカッショニストのふたりもニコニコと温かい目でこっちを見ている。
向かいのエンジニアさんたちだけが、真剣な目で彼女を見ている。