クリープ市川
# 後になって「市川」ではなく「市村」だったかもしれないと…まぁいいや、どっちみち夢だし。
中学校。何かの部活かクラブで集まって、教師に呼ばれてそれが終わった後。
男子が2人、ノック(野球の)をやりたいと言うので、部室に使っていた空き教室に全員で戻り(何故かそこに教頭も混ざっていて)扉を閉める時に。
私服を着たおかっぱ頭の知らない女の子がひとり、扉を閉めようとした時に入ってきて、無言のまま机の上に何か置いて(もしくは机の上に置いてあった何か)を、首から下げていたカメラで撮り始めた。
(何だろう?この人誰なんだろう?何で生徒じゃない女の子がここにいるの?)
部員の誰かが呟いた。「あの人クリープ市川じゃない?」
別の誰か「誰?それ」
最初に呟いた眼鏡の女子「新進気鋭のカメラマンだよ、雑誌に載ってたのを見たの」
そんな人知らないし、その人がなぜ校内に居て、しかも自分たちの部室で何かの撮影をしているのか。
教室の外が騒がしい。何だかよくわからないけど廊下に出てみたら、白いチューリップハットに黄色いウィンドブレーカーを着た太った知らないおばさんが、その辺を歩いていた生徒に手当たり次第「ねぇあなた、○○さん(夢の中での私の苗字)って生徒知らない?」と訊いていた。
どうやらこのおばさん、さっきのクリープ市川って人と関係があるような気がした。面倒くさい事になりそうな気がして、そこを見ないように急いでる風を装って下駄箱のほうへ足早に歩いて、脱出。下駄箱に着いた頃は既に、校内中の「○○さん」が、他の生徒に追い回されていた。
(あれ、この苗字、私以外に居なかったはずなのに)
私は中学生ならではの浅知恵で名札を外し、追い回されてる各学年に数名いる「○○さん」とすれ違い、昇降口脇の小さい出入り口から渡り廊下を通って、どうにか校外へ出ることが出来た。
そうして外へ出た私は、いつも「市川さん」と遊んでいた河原へ。背の高いススキで埋もれてしまっていて、隠れるには好都合だった。心の中で市川さんに「ありがとう」と言った。
そう、さっきのおばさんが探してたのは、どうやら私のことだ。
市川さんとは小さい頃、よくこの河原で遊んでいたんだ。ススキを抜いて振り回したり、穂の先っぽを結んでくしゅっと裏返して何かの形を作ったり。靴と靴下を脱いで、川に入ってサカナをじっと眺めていたり。
(つまり、知ってる人なんじゃん。何でさっきは全然知らないと思ってたんだろう?)
その頃校内では、校内中の「○○さん」が1箇所に集められて整列させられていた。
その中に、体育の授業で体操服に着替えたクラスの制服でも拝借したんだろうか?クリープ市川本人が制服を着込んで一緒に並んでいた。
○○さんに化けたクリープ市川は言う。
「そうです、私が市川さんの友達だった○○です。彼女とは、顔がそっくりだったこともあって仲が良かったんです。ずっと前に、市川さんのお母さんの不幸で離れ離れになったけど、それまでは毎日一緒に遊んでいました。ここは学校で、部外者は立ち入り禁止なのに、あなたは一体何なんですか?」
太ったおばさんは、クリープ市川を担当するゴシップ週刊誌の記者だったらしい。彼女の不幸な生い立ちを語るに欠かせない、少女時代の取材をしていたらしい。
私は(あんなに太った、勘の鈍そうなおばさんに、そんな仕事が勤まるんだろうか?)と、学校から少し離れた川原でぼんやり思っていた。
(私はあの場から逃げ出して河原に居たのに、何故その様子を知っていたんだろう?)