通学路
ある日のこと。軽音部が体育館を借り切ってライブをやるというので、手伝いに行くことにした。学校へは、徒歩25分の道のりだ。途中の歩道橋で、小学生の通学班を追い越している時にふと気付いた。
左足を強く踏み込むと、わずかながら宙に浮けることに。すごく強く踏み切ってもかなり不安定だが確かに浮いている。小学生の通学班の、ほんの30cm上空を落ちるか落ちないかのぎりぎりで高度を保ち、ぷかぷかと漂うように進んでみる。小学生たちは、こちらにまったく興味を示さず、列をまったく乱さずに進んでいる。
確か、先輩のKがPOWERを欲しがっていた。体育館に着いたら、さっき自分の中に発見したこのPOWERをK先輩に教えてあげようと思い、学校へと急ぐ。
学校に着いた。体育館は校庭の一番奥に建っている。入り口で体育館履きを忘れたことに気付いたが、フロアは既に全面緑色の保護マットが敷き詰められていたので土足のまま入る。会場の設営はかなり進んでおり、もう客席となるフロアにパイプ椅子を並べ終えるところで、中央のPA卓ではいつも軽音部のPAを担当しているオーディオマニアの同級生Tが、壇上で機材のセッティングに当たっている後輩たちにマイクチェックをさせている。
ドラマーの同級生NはPA卓で何やらモニタヘッドホンをかけて作業しており、ギターのS先輩は既にリハ終わりなのか、パイプ椅子が整然と並べられた会場内を、黒のストラトをつま弾きながらウロウロとしていた。
「そうだ、K先輩はどこだろう?」会場内を見渡すが、K先輩の姿が見当たらない。後輩のNなら居場所を知っているかもしれない。Nは壇上でケーブルをさばいていた。Nに声をかけようと壇上に近づくと、後輩のIが話しかけてきた。今日のライブで、同級生とアコースティックトリオやるので見てくれよ、と言われたが、今はとにかくK先輩だ。K先輩は、一体どこだ?